- 「バーチャルオフィスだと法人口座は作れない」と書いている銀行は、調べた5行の公式ページに1行もありませんでした。
- むしろGMOあおぞらネット銀行は「開設いただけます」と明記しています。しかも郵便転送サービスを使っている場合も可と書いています。
- 楽天銀行は「不可」とは書かず、バーチャルオフィス利用時は事業実態の確認資料が必須になる、という書き方をしています。
- 本当の分かれ目は住所そのものではなく「転送不要の簡易書留が受け取れるか」です。これは法令(犯収法施行規則6条1項3号)が確認方法として定めているもので、銀行の気分ではありません。
- 登記は法令上できます。ただし商業登記法27条により、同じ住所に同じ商号の会社が既にあると登記できません。同一住所に何百社も入るバーチャルオフィスでは実際に起こります。
バーチャルオフィスの住所で会社を登記した。そのあとで「銀行の審査に落ちる」と書かれた記事を読んで不安になった。——この順番で調べ始める方が多いと思います。
そこで、各行が公式に何と書いているかだけを確認しました。噂ではなく、銀行自身のページの文言です。
結論:作れないと書いている銀行は1行もなかった
2026年9月2日に、次の5行の公式ページとFAQを確認しました。
| 銀行 | バーチャルオフィス住所の扱い | 公式に書かれていること |
|---|---|---|
| GMOあおぞらネット銀行 | 可と明記 | 郵便転送サービス利用時も可。ただし転送不要簡易書留を受け取れることが条件 |
| 楽天銀行 | 不可の明記なし | バーチャルオフィス・レンタルオフィス利用時は事業実態の確認資料の提出が必須 |
| PayPay銀行 | 明記なし | 登記住所と別の住所を登録する場合の書類ルールのみ |
| ドコモSMTBネット銀行 (旧・住信SBIネット銀行) | 明記なし | 一方で公式サイトに「バーチャルオフィス連携サービス」の紹介ページがある |
| 三菱UFJ銀行 | 明記なし | 「バーチャルオフィス」「レンタルオフィス」の語がページ・FAQに一度も出てこない |
「審査に通りやすい/通りにくい」は書きません。審査基準と通過率はどの行も公表しておらず、確認する方法がないためです。当サイトが書けるのは「各行が公式に何と書いているか」までです。
GMOあおぞらネット銀行は「開設いただけます」と明記している
5行のうち、はっきり書いているのはここだけでした。同行のヘルプページから引用します。
登記されている法人所在地がバーチャルオフィス(レンタルオフィス)であっても口座開設いただけます。
バーチャルオフィスにて郵便物を受取・保管し、バーチャルオフィスより郵便物を転送するサービスをご利用の場合も口座開設いただけます。
郵便転送を使っていても可、とまで書いてあります。ただし、そのすぐ後に注意事項が続きます。
当社より転送不要簡易書留郵便でお送りする法人のご登録住所宛て、取引責任者さま宛て両方の書面を受け取りできない場合は、口座開設手続きが完了せず口座をご利用いただけない場合がございます。
口座開設完了後に送付された郵便物を受け取りできない場合、カードの解約や、口座の利用制限、口座解約となる場合がございます。
つまり同行の立場は「住所の種類は問わない。郵便が届くかどうかだけを見る」ということです。ここが本質です。
なお同行には、登記上の法人住所に建物名・部屋番号の記載がなく郵便物が届かない可能性がある場合に、発行日または領収日から3か月以内の納税証明書・社会保険料の領収証書・公共料金の領収証書のいずれかを求める規定もあります。
楽天銀行は「不可」ではなく「書類が増える」
楽天銀行の必要書類ページには、事業実態の確認できる資料の項目に次の一文があります。
主たる事務所としてバーチャルオフィス・レンタルオフィスをご利用の場合は上記資料の提出が必要となります。
「上記資料」とは、許認可・登録・届出、発注書・納品書・請求書、各種契約書、その他取扱商品確認資料のいずれか1点です。通常は設立6か月以内の会社にだけ求められるこの書類が、バーチャルオフィス利用なら設立からの期間に関係なく必須になる、という構造です。
そして同行が口座開設を断る場合として挙げているのが「事業実態の確認が取れない場合」です。住所が理由ではなく、事業の実在が示せないことが理由だと明記されています。審査に落ちる理由の記事で書いたとおり、ここが中心です。
郵便についても踏み込んだ記載があります。
ThankYouレター(お届けの連絡先住所宛)、ご担当者さま確認レター(口座管理者自宅住所宛)は転送不要の簡易書留郵便でご送付いたします。「転送届」を出されている場合など、両方あるいはどちらか一方が楽天銀行に返戻され、本人確認ができないと楽天銀行が判断した場合は、口座を解約させていただくことがあります。
本当の分かれ目は住所ではなく「転送不要郵便が届くか」
2行とも郵便の話をしているのには、法令上の理由があります。
犯罪収益移転防止法4条1項1号は、法人の本人特定事項を「名称及び本店又は主たる事務所の所在地」と定めています。その確認方法を定める施行規則6条1項3号は、次の3つを認めています。
- イ 代表者等から本人確認書類の提示を受ける方法
- ロ 名称・所在地の申告を受け、かつ登記情報提供サービスから登記情報の送信を受ける方法
- ハ 名称・所在地の申告を受け、かつ国税庁の法人番号公表サイトで確認する方法
ここに「その住所に事務所が実在するか確かめよ」という規定はありません。条文が定めているのは、登記されている所在地の記載を確認する方法だけです。実地調査を義務づける文言も見当たりません。
では実在性を何で担保しているかというと、ロ・ハに付いている次の要件です。非対面で申告を受ける場合、
当該方法に加え、当該顧客等の本店等に宛てて、取引関係文書を書留郵便等により、転送不要郵便物等として送付する方法
そして「転送不要郵便物等」は条文上「その取扱いにおいて転送をしない郵便物又はこれに準ずるもの」と定義されています。非対面の口座開設で郵便が使われるのは慣行ではなく、法令が確認方法として組み込んでいるからです。
ただし正確に書くと、条文が求めているのは「本店等に宛てて送付すること」までで、誰が受け取るかを規律する明文はありません。だから「バーチャルオフィスでの代理受領は犯収法違反だ」とは書けません。現にGMOあおぞらネット銀行は転送サービス利用でも可と明記しています。条文の空白を各行の約款が埋めている、というのが実際の姿です。
金融庁のガイドラインは「所在地」を名指ししている
もう一段上に、金融庁のマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドラインがあります。顧客管理(カスタマー・デュー・ディリジェンス)の対応が求められる事項として、次が挙げられています。
顧客の営業内容、所在地等が取引目的、取引態様等に照らして合理的ではないなどのリスクが高い取引等について、取引開始前又は多額の取引等に際し、営業実態や所在地等を把握するなど追加的な措置を講ずること
ここで名指しされているのは「バーチャルオフィス」ではなく「所在地が取引目的や取引態様に照らして合理的か」です。都内一等地の住所で登記しながら、事業内容・取引先・資金の動きがそれと噛み合わない場合に追加確認が入る、という構造だと読めます。
あわせて、金融庁と警察庁は2024年8月23日に「法人口座を含む預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策の一層の強化について」を金融機関団体宛に発出し、要請事項の第一に「口座開設時における不正利用防止及び実態把握の強化」を挙げています。ぶら下がりの項目には「口座の不正利用リスクが高い顧客の属性・傾向の調査・分析、これらの特徴に合致する顧客の口座開設時審査における、より厳格な実態・利用目的の確認」とあります。
ただしこの要請文に「バーチャルオフィス」という語は一度も出てきません。ここからバーチャルオフィス利用者への審査厳格化を導くのは推測になります。当サイトが書けるのは「実態把握の強化が求められている」というところまでです。
登記はできる。ただし商業登記法27条に注意
会社法27条3号は本店の所在地を定款の絶対的記載事項としていますが、その住所に事務所が実在することを求める規定はありません。法務省の株式会社設立手続の説明ページにも、法務局の商業・法人登記のよくある質問にも、本店所在地の実体を求める記述は見当たりませんでした。
つまり「バーチャルオフィスの住所では登記できない」と定めた法令は見当たらないということです。逆に「できます」と法務局が明言したページも見つからなかったので、正確には「明文の禁止規定がない」という言い方になります。
そのうえで、条文上はっきりしている制約が1つあります。商業登記法27条です。
商号の登記は、その商号が他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所の所在場所が当該他人の商号の登記に係る営業所の所在場所と同一であるときは、することができない。
同じ住所に同じ商号の会社が既にあると、登記できません。1つの住所に数百社が入るバーチャルオフィスでは、ありふれた社名を選ぶと現実に衝突します。会社名を決める前に、その住所での同一商号の有無を確認しておくと手戻りがありません。
銀行以外で効いてくる規定もある
口座が作れても、事業の種類によっては別の規定が効きます。こちらは官庁がはっきり書いています。
古物商許可(警察庁の解釈基準)では、営業所について次のように定義されています。
「営業所」とは、人の営業の本拠であって、営業全般についての法律的事実的行為の責任の所在場所をいう。したがって、営業上必要な帳簿や商品を保管する事務所、店舗等を含めた意味である。
労働者派遣事業許可(厚生労働省の業務取扱要領)では、面積が数値で示されています。
事業所について、事業に使用し得る面積がおおむね20㎡以上あるほか、その位置、設備等からみて、労働者派遣事業を行うのに適切であること。
中古品を扱う、人材派遣をやる、宅建業をやる。こうした許認可が要る事業を予定しているなら、口座より先にこちらで詰まります。住所を決める前に、自分の事業に許認可が要るかを確認してください。
申し込む前にやること
- その住所で郵便(転送不要の簡易書留)を確実に受け取れるかを、バーチャルオフィスの契約内容で確認する。ここが全ての土台です。転送サービスの可否と所要日数を先に押さえてください。
- 事業実態を示す資料を1点用意する。他社発行の請求書・発注書、締結済みの契約書、許認可証、運営実績のあるホームページ。楽天銀行はバーチャルオフィス利用なら必須と明記しています。必要書類の記事に各行の一覧をまとめています。
- 会社名を決める前に、同一住所の同一商号を確認する。商業登記法27条で弾かれます。
- 許認可が要る事業なら、営業所要件を先に確認する。古物商・派遣業・宅建業などは面積や実体の要件があります。
- 登記住所と連絡先住所を分けるなら、その分の書類を用意する。楽天銀行・PayPay銀行は発行から6か月以内、GMOあおぞらネット銀行は3か月以内と期限が違います。
審査に通ることを保証する記事ではありません。審査基準は各行とも非公開で、当サイトにも分かりません。ここに書いたのは、各行と官庁が公表している文言だけです。