- 必要書類は銀行が決めているように見えますが、もとをたどると犯罪収益移転防止法の施行規則に「この方法で確認せよ」と書いてあります。銀行ごとの差は、そのどの方法を採るかの差です。
- そのため「登記事項証明書が要らない銀行」が実在します。GMOあおぞらネット銀行は法人番号確認書類で代替でき、謄本の提出を必須にしていません。
- 逆に同行は「履歴事項全部証明書・定款・法人設立届出書は事業内容が確認できる書類とはならない」と明記しています。謄本を集めれば足りる、という理解は通用しません。
- 有効期限が書類ごとに違います。登記事項証明書は6か月以内、印鑑証明書は3か月以内という行が多いので、取る順番を間違えると取り直しになります。
- 合同会社は実質的支配者の判定ルートが株式会社と別です(施行規則11条2項3号)。ここは申込書の記入段階でつまずきます。
法人口座の必要書類を調べると、銀行ごとに書いてあることが違います。謄本が要る行と要らない行があり、印鑑証明書も要否が分かれます。何が正しいのか分からなくなります。
結論から書くと、各行がばらばらなのではなく、法令が「複数の確認方法」を認めているため、どれを採るかが行によって違うという構造です。ここを押さえると、自分の会社で何を用意すべきかが決まります。この記事は、犯罪収益移転防止法の施行規則と、各行が公開している必要書類ページを実際に読んで書いています。
必要書類は「法令の4項目」から逆算すると決まる
銀行が法人の口座開設時に確認しなければならない事項は、犯罪収益移転防止法4条1項で次の4つと定められています。
1号 本人特定事項(法人にあっては名称および本店または主たる事務所の所在地)
2号 取引を行う目的
3号 事業の内容
4号 実質的支配者の本人特定事項
さらに同条4項で、代表者など「現に取引の任に当たっている自然人」の本人特定事項も別途確認すると定められています。法人の書類と、代表社員個人の本人確認書類の両方を求められるのはこのためです。
そして、それぞれを「どう確認するか」は施行規則に書かれています。必要書類の一覧は、ここから逆算されたものです。
| 確認事項 | 施行規則 | 認められている確認方法 |
|---|---|---|
| 法人の本人特定事項 | 6条1項3号 | イ 本人確認書類の提示/ロ 登記情報提供サービスから登記情報の送信を受ける/ハ 国税庁の法人番号公表サイトで名称・所在地を確認(ロ・ハは転送不要郵便との組み合わせ) |
| 取引を行う目的 | 9条 | 顧客またはその代表者等から申告を受ける方法(=申込書の記入) |
| 事業の内容 | 10条2号 | イ 定款/ハ 設立登記に係る登記事項証明書/ニ 官公庁発行の書類その他これに類するもので事業の内容の記載があるもの(ニは確認日前6か月以内に作成されたもの) |
| 実質的支配者 | 11条1項 | 代表者等から申告を受ける方法 |
ここが一番の分かれ目です。法人の本人特定事項は、施行規則6条1項3号ロ・ハにより登記情報の送信や法人番号公表サイトでも確認できると定められています。ネット銀行が「謄本の原本は不要」と案内できるのは、この条文があるからです。銀行が親切なのではなく、法令が認めている方法を採っているだけです。
銀行別の必要書類(公式ページの記載どおり)
2026年9月2日に各行の公式ページで確認した内容です。金額・期限は公式表記のまま載せています。
GMOあおぞらネット銀行
- 登記事項証明書:必須ではありません。法人確認は「法人番号確認書類」(法人番号指定通知書、または法人番号公表サイトの印刷書類)で代替します。
- 印鑑証明書:原則不要。代表者と取引責任者が異なる場合のみ、権限委任状とあわせて発行から6か月以内の原本が必要です。
- 取引責任者の本人確認書類:運転免許証、マイナンバーカード、パスポート、健康保険証等から1点。
- 事業内容確認書類:【1】会社概要が分かるもの1点以上(運営実績3か月以上のホームページ、会社案内、パンフレット、許認可証など)+【2】事業活動状況が分かるもの1点以上(締結済み契約書、他社発行の請求書・発注書・納品書など)。発行後6か月以内・日本語のみ。
- 手続き:書類はアップロードまたは郵送を選択できますが、郵送物の受取は必須です(ログイン情報の書面など)。審査完了後、最短2営業日後に発送と案内されています。
楽天銀行(法人ビジネス口座)
- 履歴事項全部証明書(原本):必須。発行より6か月以内。
- 法人の印鑑証明書(原本):必須。発行より3か月以内。
- 法人ビジネス口座開設申込書、法人口座開設申込委任状兼実質的支配者に関する届出書(いずれもお届印の捺印)。
- 口座管理担当者の本人確認書類1点。
- 事業実態確認資料:申込時点で設立から6か月以内の場合に追加で必要。許認可、自社発行でない発注書・納品書・請求書、各種契約書など。バーチャルオフィス・レンタルオフィス利用時は提出必須です。
- 手続き:オンライン完結ではありません。WEB申込後、申込書を印刷・署名押印して郵送します。申込から180日以内に書類が到着することという期限があります。
三菱UFJ銀行
- 履歴事項全部証明書:必須。発行から6か月以内。
- 法人の印鑑証明書:必須。発行から6か月以内。(楽天銀行の3か月以内とは異なります)
- 取引担当者の公的な本人確認資料。代表者以外が申請する場合は委任状と代表者の本人確認資料。
- 許認可が必要な業種は、法人名義・有効期限内の許認可等の資料が必要です。
- 所要期間:公式に「申し込み登録から口座開設まで、1か月〜1か月半」と明記されています。WEB申込後にWEB面談があり、オンライン完結ではありません。
ドコモSMTBネット銀行(2026年8月3日に住信SBIネット銀行から商号変更)
- 印鑑登録証明書:「担当者を届け出る場合」または「実質的支配者の居住地国に日本以外を含む方がいる場合」に必要。発行日から3か月以内の原本。
- 代表者・担当者の本人確認書類1点。運転免許証、個人番号カード(表面のみ)、住民票の写し(発行から3か月以内の原本)など。スマートフォン等で撮影した写真を印刷したものは不可と明記されています。
- オンライン申込の要件が公表されています。日本国内で登記、代表者が有効な運転免許証を保有、担当者の届出が不要(代表者本人が手続)、実質的支配者が5人以下で全員の納税地が日本のみ、など。
- 登記事項証明書の要否は、公式ページで確認できませんでした。事業内容確認書類の要否・種類についても記載を見つけられていません。申込前に直接ご確認ください。
PayPay銀行
この記事では必要書類の一覧を掲載しません。公式の「口座開設に必要な書類」ページを確認しましたが、当方の環境で本文を正確に読み取れませんでした。断片的に「6か月以内の登記事項証明書」「業務内容確認資料」といった語は確認できたものの、どの書類がどの条件で必要かを確定できていないため、推測で書くことはしません。
公式に確認できた事項のみ記載します。申込は申請フォーム記入 → 必要書類のアップロード → 銀行振込の確認という3ステップです。「業務内容確認資料」という区分があり、申請時に登録する業種・業務内容・取扱商品と、提出書類の内容が一致している必要があると明記されています。また「規定の書類を用意できない場合、その他の資料を代用して口座開設することはできません」ともあります。
登記事項証明書は、取り方で費用が変わる
謄本が必要な行に申し込むなら、ここは知っておくと安く済みます。法務省が公表している登記手数料(令和7年4月1日から)は次のとおりです。
| 請求方法 | 登記事項証明書 | 印鑑証明書 |
|---|---|---|
| 書面請求(窓口・郵送) | 600円 | 500円 |
| オンライン請求・郵送受取 | 520円 | 450円 |
| オンライン請求・窓口交付 | 490円 | 420円 |
1通の枚数が50枚を超える場合、超える枚数50枚までごとに100円が加算されます。
登記事項証明書の交付請求は「かんたん証明書請求」からブラウザで行え、専用ソフトのダウンロードもパソコンの環境設定も不要と法務局が案内しています。ただし印鑑証明書のオンライン請求には電子証明書が必要です。ここは分かれます。
オンライン請求の利用時間は平日8時30分から21時までですが、17時15分以降の請求は翌業務日の受付になります。また、交付は郵送か窓口受取であり、証明書がPDFでダウンロードできるわけではありません。
登記情報提供サービス(1件330円)は、証明書の代わりになりません。登記官による証明文が付かないためです。ただし前述のとおり、施行規則6条1項3号ロは銀行側がこのサービスで登記情報の送信を受ける方法を認めています。「銀行が使える」のであって「自分で印刷して提出できる」わけではない、という違いです。
合同会社は実質的支配者の判定ルートが違う
ここは合同会社で必ず引っかかるところです。実質的支配者の判定は施行規則11条2項に定められていますが、株式会社と合同会社では適用される号が違います。
| 号 | 対象 | 判定基準 |
|---|---|---|
| 1号 | 資本多数決法人(株式会社など) | 議決権の総数の4分の1を超える議決権を直接・間接に有する自然人 |
| 2号 | 同上(1号該当者なし) | 事業活動に支配的な影響力を有する自然人 |
| 3号 | 資本多数決法人以外(合同会社・合名会社・合資会社など) | イ 事業から生ずる収益または事業に係る財産の総額の4分の1を超える収益の配当・財産の分配を受ける権利を有する自然人/ロ 支配的な影響力を有する自然人 |
| 4号 | 前三号に該当者がない法人 | 当該法人を代表し、その業務を執行する自然人 |
合同会社は3号で判定します。よくある「議決権25%超」という説明は1号(株式会社)の話で、合同会社にそのまま当てはめると誤りです。一人合同会社であれば、3号イに該当するか、該当者がいなければ4号で代表社員が実質的支配者になります。
楽天銀行は申込書類の説明で法人形態を「A(株式会社・有限会社など)」と「B(合同会社、合名会社、合資会社、一般社団・財団法人など)」に分け、Bには別の判定フローチャートを用意しています。合同会社であることを明示的に区分している数少ない例です。
「謄本を出せば事業内容の確認になる」は成り立たない場合がある
制度の建前としては、金融庁が2013年9月3日付の文書で、事業の内容の確認について定款・登記事項証明書などのいずれか一つで足りるとするなど利便性に配慮した対応を求めています。施行規則10条2号ハも、設立登記に係る登記事項証明書を確認方法として挙げています。
ところが、GMOあおぞらネット銀行は事業内容確認書類の案内で次のように明記しています。
「履歴事項全部証明書」「法人設立届出書」「定款」は事業内容が確認できる書類とはなりません
法令が認める方法と、実際の行の運用が一致しないことがある。これは押さえておくべき点です。銀行は法令の最低ラインより厳しい確認を行うことができます。背景として、金融庁と警察庁は2024年8月23日に「法人口座を含む預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策の一層の強化について」を発出し、要請事項の第一に口座開設時における不正利用防止および実態把握の強化を挙げています。
したがって、謄本と定款だけを用意して「これで足りるはず」と申し込むと止まります。事業が動いていることを示す資料(契約書、他社発行の請求書、運営実績のあるホームページ、許認可)を別途そろえる必要があります。審査に落ちる理由の中心もここです。
申し込む前に用意するもの(取得順)
期限が短いものを後に取るのが原則です。印鑑証明書は3か月以内という行があるため、最後に取ります。
- 事業実態を示す資料をつくる(最も時間がかかる) — ホームページは運営実績3か月以上を求める行があります。他社発行の請求書・発注書・締結済み契約書があれば、それが最も強い資料です。
- 許認可が必要な業種なら、許認可証を先に取得する — 法人名義・有効期限内であることを求められます。
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)を取る — 多くの行で6か月以内。オンライン請求+窓口交付なら490円です。
- 代表者の本人確認書類を確認する — 有効期限内であること。ドコモSMTBネット銀行のオンライン申込は代表者が有効な運転免許証を保有していることが要件です。
- 印鑑証明書を取る(申込直前) — 楽天銀行・ドコモSMTBネット銀行は3か月以内、三菱UFJ銀行は6か月以内。必要な行の中でいちばん短い期限に合わせます。
- 申込書の「事業の内容」欄に書く文言を決めておく — 提出する資料の内容と一致している必要があります。PayPay銀行は不一致を明示的に問題としています。
当サイトは「この銀行は審査が甘い」とは書きません。審査基準は各行とも公表しておらず、金融庁・全国銀行協会にも法人口座の謝絶基準を示した公表資料はありません。確認できないことを書かない方針です。